
眼瞼下垂(がんけんかすい)は上まぶたが下がって視界が狭くなる症状で、手術による治療が一般的です。その際「メスを使わず糸で治す方法」が気になる方も多いでしょう。
どんな手術なのか、糸は何でできているのか、メスを使う眼瞼下垂手術との違いなどを知っておくと、自分の症状に合わせて適切な手術方法を選びやすくなります。
この記事では、糸による眼瞼下垂治療の仕組みや、向いているケースと向かないケース、切開を伴う眼瞼下垂手術との違いや放置するリスクなどについて紹介します。眼瞼下垂で糸を使う治療や、眼瞼下垂の根本的な治療にはどのような手術が向いているかなどについて知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
埋没法に使われる「糸」について
眼瞼下垂の治療では、皮膚を切開せずに糸(縫合用の極細の医療糸)を使用する手術法があります。
ここでは、糸を使う眼瞼下垂手術(埋没法)の具体的な術式や特徴について紹介します。
埋没法の眼瞼下垂手術とはどんな手術?
糸による埋没法の眼瞼下垂手術は、皮膚を切らずに内部の組織を糸で縫い縮め、まぶたの開きを改善することを目的とした方法です。
切開しないことから「切らない眼瞼下垂」と呼ばれることもあり、医学的な名称では「ミュラー筋タッキング法」といいます。具体的には、ゆるんで下がった眼瞼挙筋(まぶたを挙げる筋肉)やその先端の挙筋腱膜を、糸でまぶたの支えである瞼板(けんばん)に固定します。
これにより、筋肉と瞼板の距離が縮まり、まぶたが持ち上がりやすくなる仕組みです。皮膚の表面に傷を作らずに済むため、術後の腫れや出血が少なく、ダウンタイムが短いことが特徴です。
ただし糸だけで筋肉を支える手術のため、患者さんの症状や筋肉の状態によって向き不向きがあります。
まぶたの中で糸はどのように使われているのか
埋没法の手術では、まぶたの裏側(結膜側)に特殊な針を通し、眼瞼挙筋と瞼板を糸でかけ合わせて縫い留めます。
糸は髪の毛より細い医療用のものを使用し、まぶたの内部で結んで固定するため、外から見えることはありません。
使用される糸には非吸収糸(ナイロン糸やポリプロピレン糸など)と吸収糸(ポリグリコール酸など)の2種類があり、一般的には緩んだ筋肉をしっかり固定するために、非吸収糸が選ばれることが多いです。
糸を使った眼瞼下垂のメリットや注意点
糸による眼瞼下垂治療には複数のメリットや注意点があります。
まずはメリットを見てみましょう。
- 切開による傷跡が残らない
- ダウンタイムを抑えられる
- 将来的に糸を外したり手術をやり直すことも比較的容易
事前に医師と「どんなライン(二重)にするか」などを細かく打ち合わせできるため、理想の結果に近づきやすいことは、美容面も重視したい方には重要なメリットでしょう。また、糸を抜けば元の状態に戻るため、再手術や調整が比較的容易です。
一方、以下のような注意点もあります。
- 切開法と比べて固定力が弱く、効果が不十分になることがある
- 効果が長続きしないことがある
- 眼瞼痙攣リスクの高さや合併症が多く報告されている
- 将来的にまぶたがさらに下がり、切開による眼瞼下垂手術が必要になることがある
- 保険適用されず、自費診療となる
糸による眼瞼下垂治療は、切開をしないためダウンタイムを抑えられるメリットがある一方、十分な改善効果が得られないことがあり、さらに合併症のリスクが高いことから、否定的な立場の医師が多い方法です。
一般的な二重手術との違い
糸を使ったまぶたの手術として、二重まぶたにする二重埋没法をご存じの方も多いかもしれません。
二重埋没法は、眼瞼下垂の埋没手術と名称は似ていますが、目的も手順も異なっています。
二重整形の埋没法は、まぶたの皮膚と皮下組織を糸で留めて二重のラインを形成する美容手術です。あくまで見た目の二重まぶたを作ることが目的であり、眼瞼挙筋には触れません。
一方、眼瞼下垂の埋没法では、前述の通り緩んだ挙筋腱膜を瞼板に縫いつけて筋力を補強することを目的にしています。二重の有無にかかわらず、目の開き具合(開瞼機能)の改善を狙う点が二重埋没法との違いです。
二重埋没法では、眼瞼下垂を根本的に治療できないため、注意が必要です。
眼瞼下垂は糸で治せる?
糸による治療効果が期待できる眼瞼下垂と、治療効果が難しい眼瞼下垂には違いがあります。眼瞼下垂は原因や重症度によって治療法の適応が異なり、すべての場合で埋没法が使えるわけではありません。
ここでは、糸で治せるケースと治せないケースの目安などについて紹介します。
軽度の眼瞼下垂には効果が期待できる?
軽度から中等度程度の眼瞼下垂であれば、糸による治療法で治療効果が期待できる場合があります。
埋没法は眼瞼挙筋の筋力自体を強くするわけではありませんが、ゆるんだ腱膜を正しい位置に引き寄せて固定することで、本来の筋力を発揮しやすくします。
そのため、筋肉の機能がある程度保たれている方(まぶたを自力である程度挙げられる方)の腱膜性眼瞼下垂などでは、埋没法でも症状が改善しやすい傾向があります。
ただし、糸による治療法ではミュラー筋(反射的に目を開ける筋肉)に触れることによる眼瞼痙攣のリスクが指摘されているため、慎重に検討する必要があるでしょう。
糸で治せないケースとは
重度の眼瞼下垂や特殊なタイプの下垂では、糸の治療では改善が困難です。
例えば、生まれつきまぶたを上げる筋肉の力が弱い先天性眼瞼下垂は、筋肉自体の問題でまぶたが持ち上がらないため、いくら糸で固定しても十分にまぶたを開ける状態にはなりません。また、交通事故などによる外傷性の眼瞼下垂や、神経麻痺による下垂も、根本原因が腱膜のゆるみではないため埋没法では対処できません。
このような重症のケースでは、筋肉ごと短縮したりほかの組織で代用する手術(後述の筋膜移植術など)が必要です。
このほかまぶたの皮膚が過剰にたるんでいる場合も、糸だけで持ち上げるのは難しく、皮膚そのものを切除する手術(上眼瞼皮膚切除や眉下切開)が必要になることが多いです。
無理に糸で治すと考えられるトラブル
埋没法に向かないケースを無理に糸で治そうとした場合、いくつかのトラブルが考えられます。
まず、期待した効果が得られず症状が改善しない可能性があります。
糸で固定しても筋力不足でまぶたが十分上がらず、手術前とほとんど変わらない状態に終わってしまうケースです。
逆に、無理に持ち上げようとして糸を強く引きすぎると、今度は目が開きすぎてしまうリスクがあります。不自然に見えるだけでなく、角膜が乾燥しやすくなるなど目の健康リスクが発生する可能性もあります。
医師からのアドバイスをよく考慮する
治療法を選ぶ際には、医師のアドバイスをよく考慮することが重要です。
医師が診察した上で「あなたの場合は糸の手術は難しい」と説明したのであれば、その意見を一旦は受け止めましょう。無理に埋没法を希望しても、前述したような不利益が生じる可能性があります。
もちろん、納得がいかなければセカンドオピニオンを求めることも可能です。重要なのは、自分の眼瞼下垂の原因や程度を正しく知り、それに合った治療法で治すことです。
目元は顔の印象を大きく左右する大切な部位であるため、さまざまな面からじっくり検討しましょう。
眼瞼下垂を放置するとどうなる?
眼瞼下垂を放置すると、徐々に日常生活への支障が大きくなる恐れがあります。
ここでは、眼瞼下垂を治療せず、放置した場合に起こりやすい影響について紹介します。
視界の狭まりや視力低下につながる可能性
まぶたが下がって黒目の上部を覆う眼瞼下垂では、上方の視野が狭くなり日常生活で見えにくさを感じます。
さらに、瞳孔にかかるまぶたを無意識に避けようとするため、額の筋肉でまぶたを引き上げ続ける状態になります。
目を開く動作に余計な力が必要になって目そのものも疲労しやすくなり、慢性的な眼精疲労から視力低下を招く可能性があるため、早めの治療が必要です。
肩こり・頭痛・眼精疲労などの慢性症状
眼瞼下垂の放置は、肩こりや頭痛といった全身の不調を引き起こす原因のひとつです。
まぶたが下がると、しっかり前を見ようとして無意識に眉毛を上げ、額の筋肉(前頭筋)を使い続ける状態になります。この不自然な筋緊張が首や肩にまで及び、筋肉の疲労や血行不良を生じさせてしまい、肩や首がこったり頭痛が起きたりします。
前述のような眼精疲労も放置すると慢性化しやすいです。ピント調節に負担がかかるため、目の奥の痛みや充血などに悩まされやすくなります。
額のシワや顔全体の印象変化
眼瞼下垂をそのままにしていると、額のシワが深く刻まれる恐れがあります。
まぶたが下がった状態で視界を確保するために、無意識に眉毛を上げてまぶたを持ち上げようとするためです。額の前頭筋を酷使することになり、おでこにシワが寄った状態がクセになり、常に驚いたようなシワが残ってしまいやすくなります。
また、まぶたが垂れ下がっていると目が小さく眠そうに見え、「疲れている」「老けている」といったマイナスの印象につながることがあります。
重症化で手術が複雑になるリスク
眼瞼下垂は放置すればするほど複雑な手術が必要になってしまうリスクがあります。
加齢や筋力低下が進めば、軽度だった下垂が中等度・重度へと悪化することもあるでしょう。放置して重症化してしまうと、治療のための手術もより複雑で大掛かりになることも考えられます。
糸による改善が難しい場合に選ばれる眼瞼下垂治療法
糸による埋没法が難しい場合や効果が不十分な場合には、切開法による眼瞼下垂の手術も検討しましょう。
ここでは、糸による埋没法以外の眼瞼下垂手術や再手術、保険診療との関係などについて紹介します。
眼瞼下垂手術の種類
切開を伴う眼瞼下垂の手術にはいくつかの術式があり、症状や原因に応じて使い分けられています。
以下に代表的な術式とその特徴をまとめました。
| 手術法 | 内容 |
|---|---|
| 挙筋前転法 | 挙筋腱膜がまぶたから外れている場合に適応。挙筋腱膜をまぶたに縫合し直す。 |
| 挙筋短縮法 | 重度の眼瞼下垂に適応。眼瞼挙筋を切除・固定する。 |
| 上眼瞼切開法(皮膚切除) | たるんだ上まぶたの皮膚を切除・調整する。 |
| 筋膜移植法(前頭筋吊り上げ術) | 額の筋肉(前頭筋)とまぶたをつなぐ。大腿筋膜を移植することが多い。 |
| 眉下切開 | 眉毛の下を切開してたるみを取り除く。まぶたを切開しない術式で傷跡が目立ちにくい。 |
当院、医療法人まぶたラボ ひふみるクリニックでは根本的な眼瞼下垂の治療法として、切開法に重点を置いています。切開法による眼瞼下垂手術は、根本的な原因を治療可能で、長期間の効果が期待できる方法です。
症状や患者さんの希望で適した術式は変わりますが、よりよい治療結果を目指すために、眼瞼下垂の治療には切開を伴う手術も検討してみてください。
保険診療が可能なケースも多い
眼瞼下垂の手術の多くは、一定の条件を満たしていれば保険診療が適用されます。
具体的には以下のような条件です。
- 黒目が半分近くまぶたに隠れている
- 視野が狭く日常生活に支障がある
- 頭痛や肩こり等の症状がある など
保険診療の範囲かどうかの判断は医師が行いますが、機能改善が目的の眼瞼下垂手術であれば、保険適用になるケースが多いでしょう。
形成外科での眼瞼下垂手術がすすめられる理由
「眼瞼下垂かな」と思ったら形成外科の受診をおすすめします。
眼瞼下垂は機能回復手術であると同時に、顔の印象にも関わる繊細な手術です。形成外科では、まぶたの開き具合を改善しつつ、左右差をできるだけ抑え、自然な二重のラインを形成するなど、仕上がりにも配慮した手術を行います。
眼瞼下垂は専門知識と技術を要する治療分野です。専門知識と技術を持つ医師を選び、満足できる治療につなげましょう。
まとめ
糸を使った埋没法の眼瞼下垂治療は、皮膚を切開せず、ダウンタイムが抑えられることが特徴です。一方、効果が不十分なケースや、糸がゆるんで戻ってしまうケースもあり、将来的に切開法での手術が必要になることもあります。
自分の症状に適した治療法を選ぶためにも、形成外科専門医の診察を受けた上で治療計画を立てましょう。
医療法人まぶたラボ ひふみるクリニックでは、眼瞼下垂手術の症例数豊富な形成外科専門医が、眼瞼下垂でお悩みの患者様1人ひとりに寄り添った診察と治療をご提供しています。「眼瞼下垂を治したいならどんな手術法がいいの?」「手術のことで不安がある」など、疑問やご不安があればどんな小さなことでもご相談ください。


