
眼瞼下垂の対策として、メスを使わず糸で二重を作る「二重埋没法」で改善できるという話を耳にする人もいるでしょう。
しかし、二重埋没法は本来、美容目的でまぶたに二重ラインを形成する施術であり、眼瞼下垂の根本的な治療法とは目的や効果が異なっています。二重埋没法が適した症例や眼瞼下垂の手術方法など、それぞれの違いを知っておくと治療に役立つでしょう。
この記事では、眼瞼下垂と二重埋没法の関係や眼瞼下垂手術との違い、さらに根本的な治療法などについて紹介します。二重埋没法による眼瞼下垂治療は可能なのか気になる方や、これから眼瞼下垂の治療や手術を検討している方はぜひ参考にしてください。
二重埋没法が眼瞼下垂の治療に使われる理由
眼瞼下垂に悩み、「切らないで治したい」と希望をもつ方に検討されることがあるのが二重埋没法です。
ここでは、二重埋没法の仕組みや軽度の眼瞼下垂に応用される理由、期待できる効果の限界などについて紹介します。
二重埋没法とは?
二重埋没法とは、メスを使わずに医療用の糸でまぶたを留めて二重まぶたを作る美容手術です。
上まぶたの内部に極細の糸を通し、希望する高さで皮膚と眼瞼挙筋または瞼板を結び付けることで二重のラインを形成します。切開しないため傷跡が残らずダウンタイム(回復までの期間)も短いのが特徴で、施術時間は10~15分程度と短時間で完了します。
糸がまぶたの中に埋まった状態になるため外から結び目は見えず、目を閉じても傷が目立ちません。患者さんにとって負担の少ない特徴があり、「切らない二重整形」として広く行われています。
軽度の眼瞼下垂で使われることがある理由
軽度の眼瞼下垂の場合、「メスを使った手術はしたくないが見た目を改善したい」などの理由で、二重埋没法を希望する患者さんもいます。
症状によりますが、眼瞼下垂はまぶたのたるみを引き上げることで改善する場合があります。そのため、二重埋没法でまぶたに折り目を作ることで目をぱっちりさせ、眠そうな印象を和らげる効果を狙うというわけです。
しかし、そのような効果が期待できるのはあくまで軽症例に限られ、また、眼瞼下垂の根本的な解消にはなりません。
まぶたの構造や状態によって効果に差が出る
二重埋没法の効果は、1人ひとりのまぶたの構造や状態によって左右されるケースも多いです。
特に、眼瞼下垂でまぶたを支える筋肉や腱膜が緩んでいる症状の患者さんは、糸で二重ラインを作っても十分な力でまぶたを持ち上げられないことがあります。
また、まぶたの状態が以下のような場合はやはり効果が出づらくなります。
- まぶたの皮膚や脂肪が厚い
- 上まぶたにたるみが多い
このような場合、二重埋没法で折り目をつけても皮膚の重みでラインが安定しにくく、効果が現れにくい傾向があります。
再発や戻りが起きやすいとされる仕組み
二重埋没法は手軽に行える反面、ラインが取れる(元に戻る)リスクもあります。
主に以下のような理由です。
- 加齢やまぶたの状態変化で糸がゆるむ
- まぶたの組織が元の位置に戻ろうとする
このような理由から、時間の経過とともにラインが薄くなったり消失したりすることがあります。
特に眼瞼下垂の対処として二重埋没法を選んだ場合、まぶたを支える力自体が弱いため、糸がゆるみやすいです。
二重埋没法と眼瞼下垂手術の違い
眼瞼下垂の根本的な解決を図る手術(眼瞼下垂手術)と、見た目を整える処置(二重埋没法)では目的も方法も異なります。
ここでは、それぞれの目的や効果の違いや機能面への影響などについて紹介します。
治療の目的が異なる|見た目や機能の違い
二重埋没法と眼瞼下垂手術では、「美容目的か」「治療目的か」に分かれ、施術の目的が根本的に異なります。
二重埋没法は前述したように、まぶたに二重のラインを作って見た目を華やかにすることが主な目的です。一方、眼瞼下垂手術は垂れ下がったまぶたを持ち上げて眼の開きを改善することが目的の治療です。
また、二重埋没法では二重まぶたになり、目元の印象が変わりますが、眼瞼挙筋の機能には影響を与えません。しかし、眼瞼下垂手術では挙筋や腱膜をしっかりと調整するため、まぶたそのものが持ち上がり、視野の改善など機能面の効果が得られます。
見た目の変化としても、黒目にかかるまぶたが上がることで目が開けやすくなり、自然に大きくはっきりした目元になるケースが多く、治療面と審美面の双方に影響します。
眼瞼下垂手術は筋肉を調整
眼瞼下垂手術では、まぶたが下がる原因になっている筋肉や腱膜の状態を直接改善します。
例えば術式のひとつである「挙筋前転法」は、上まぶたを切開して緩んだ挙筋腱膜を前方(瞼板側)に移動させて縫い付け、瞼板への付着を強化します。この処置により、筋肉の力がまぶたにしっかり伝わるようになり、垂れ下がったまぶたが持ち上がる仕組みです。
このほか、症状の程度に応じてさまざまな手術法が選択されますが、いずれの術式でも、ポイントはまぶたを開く構造そのものを手術で改善する点は共通しています。二重埋没法がまぶたの内側の一部を固定する処置であるのに対して、眼瞼下垂手術は内部の筋肉・腱膜にアプローチする方法です。
眼瞼下垂を治したいのであれば、二重埋没法ではなく眼瞼下垂手術を受ける必要があります。
二重埋没法は皮膚や組織を糸で留める処置
二重埋没法は皮膚や眼瞼の組織を糸で留め、二重のひだを作る処置です。メスで切開しないため、組織の結合は糸に頼る形になります。
具体的には、上まぶたの皮膚の裏側から糸を通し、作りたい二重ライン上で皮下組織や眼輪筋と瞼板(または挙筋)を結ぶことで意図的な癒着を起こし、まぶたに折り目をつけます。この処置によって形成された二重まぶたは、糸による支持がある限り維持される状態となります。
しかし、二重埋没法では筋肉の長さや力そのものは変えていないため、眼瞼下垂に対する機能的な改善は期待できません。例えば、まぶたが下がって黒目に被さっている患者さんに二重埋没法だけを施術し、二重まぶたになっても、目を開く力の改善はできません。
眼瞼下垂の症状を根本から改善するための治療法
眼瞼下垂の症状を根本的に改善するためには、原因に直接アプローチできる眼瞼下垂手術が有効です。
ここでは眼瞼下垂手術の代表的な術式や、再手術の可能性や術後のケアなどについて紹介します。
眼瞼下垂手術
眼瞼下垂に対する手術には複数の術式があり、症状の原因や程度に応じて医師が適切な術式を判断します。
主な術式と概要を以下にまとめました。
| 術式名 | 特徴 |
|---|---|
| 挙筋前転法 |
・上眼瞼挙筋の腱膜がまぶたから外れている場合に行う ・挙筋腱膜を瞼板に縫い直して正しい位置に固定し、垂れ下がったまぶたを改善する |
| 挙筋短縮法 |
・挙筋機能低下が著しい重度の眼瞼下垂に対して行う ・伸びて緩んだ眼瞼挙筋の一部を切除したり縫い縮めたりして筋肉を短くし、まぶたを持ち上る |
| 上眼瞼切開法(皮膚切除) |
・まぶたの皮膚のたるみが原因の場合に行う ・上まぶたの余分な皮膚を切除・調整することでまぶたの重みを軽減する |
| 筋膜移植法(前頭筋吊り上げ術) |
・筋力が極端に弱く、重度の症例の場合に行う ・太ももの筋膜など自分の組織を移植し、額の前頭筋とまぶたを繋いで前頭筋の力でまぶたを引き上げる |
| 眉下切開法 |
・眉毛のすぐ下を切開して皮膚のたるみを取り除く ・直接まぶたを切らないため自然な仕上がりになりやすく、軽度の下垂改善に向いている |
いずれも機能面と審美面の両面を考慮して手術が行われ、医師の技術や経験が重要です。視界が改善すると同時に自然な二重まぶたになるよう配慮することもできます。
なお「切らない眼瞼下垂」と呼ばれる方法も存在しますが、効果の持続性への疑問や眼瞼痙攣・合併症リスクの高さから、当院では行っておりません。
手術後のケアや注意点
眼瞼下垂手術後は、翌日に受診し、傷や腫れの経過を医師が確認します。
抜糸までは傷口の清潔保持や、医師に処方された軟膏、クリームなどでの保護を徹底しましょう。
また、腫れや内出血の悪化につながりやすいため、以下のことは医師の許可が出るまで控えてください。
- 長湯
- サウナ
- 激しい運動
- 飲酒 など
日常生活では、額の筋肉を使わず目を開ける練習が重要です。抜糸後も定期的な診察を受け、医師の指示通りにケアを続けましょう。術後ケアを徹底することで合併症予防と順調な回復が期待できます。
再手術の判断基準について
眼瞼下垂手術を受けた後に、再手術(やり直し手術)が必要になるケースもあります。
再手術が必要かどうかの判断基準としては、術後十分な経過観察期間を置くことが挙げられます。術後すぐの段階で「思ったより上がっていない」「左右差がある」と感じても、少なくとも約3か月は様子を見るとよいでしょう。
手術直後~数週間は腫れの影響で左右差が出たりまぶたの開き具合が安定しなかったりしますが、約3か月ほど経過すると落ち着き、最終的な仕上がりが固まるケースが多いです。
ただし、明らかに目立った異変があったり腫れがひどくなったりするようなことがあれば、すぐに手術をした医療機関で相談してください。
自分に合った治療法を考える時のチェックポイント
眼瞼下垂の治療法を選ぶ際には、自身の症状や希望に合った方法を考えることも大切です。
ここでは、治療法を検討する時に押さえておきたいポイントを紹介します。
どのような症状・目的で治療を検討しているか
まずは自分の症状と治療の目的を考えてみましょう。
例えば、「二重の幅を広げてぱっちりした目にしたい」という場合は美容上の目的で、二重埋没法が適していることもあります。しかし、「まぶたが下がって視界が遮られる状態を改善したい」といった、眼瞼下垂で衰えた機能の改善目的であれば、眼瞼下垂手術で根本的な治療が必要です。
自分の症状が美容的な悩みなのか機能的な悩みなのか、あるいはその両方なのかを整理し、それに合った治療ゴールを設定することが大切です。
手術の負担と効果の持続性
治療法ごとに身体への負担や効果の持続性、費用負担も異なるため、その点も考慮しましょう。
二重埋没法は切開を伴わない分、腫れや痛みが少なくダウンタイムも短いのがメリットですが、その反面、効果が長く持続しない可能性もあります。
眼瞼下垂手術はメスを入れて内部構造を変えるため、埋没法に比べるとダウンタイムは長くなりますが、根本的な治療ができ、効果も長期間の継続が期待できます。
また、費用面でも違いがあります。二重埋没法は自由診療で全額自己負担ですが、眼瞼下垂手術は一定の条件を満たせば保険適用になり、1~3割の自己負担で済みます。
一時的な処置と根本的な改善の違い
治療法を選ぶ際には、一時的な処置で様子を見るか、根本的な改善を目指すかという違いも考慮しましょう。
二重埋没法は、前述の通り眼瞼下垂そのものを治すわけではなく、一時的に見た目を整える美容手術です。軽度の眼瞼下垂であれば、埋没法で二重にするだけでも外見上の悩みは解消できるケースもありますが、眼瞼下垂そのものを治療することはできません。また、眼瞼下垂の症状が進行した場合には糸が取れてしまうこともあり、結局は抜本的な治療が必要になる可能性があります。
一方、眼瞼下垂手術は、筋肉や腱膜、皮膚など問題の原因に直接アプローチする根本的な治療です。一度しっかり治療すれば長期間にわたる効果が期待でき、再発リスクも抑えられます。
カウンセリングで確認しておきたい項目
治療法を選ぶ時にはカウンセリングが行われますが、その際にいくつかの事項を医師に確認しておくとスムーズな治療計画を立てやすくなります。
例えば、以下のような項目は積極的に質問し、確認しておきましょう。
- 自分の眼瞼下垂の程度と原因
- 提案された治療法の内容と期待できる効果、メリット・デメリット
- ダウンタイムやリスクの説明
- 過去の施術歴や生活習慣の申告 など
このような項目を事前に整理し、医師と十分にコミュニケーションを取ることで、自分にとって適切な治療法を選びやすくなります。
まとめ
軽度眼瞼下垂は二重埋没法によって見た目が改善する場合もありますが、眼瞼下垂の根本的な治療にはなりません。
一方、眼瞼下垂手術は挙筋や腱膜など原因に直接アプローチするため、症状の根本的な改善を目指せる治療法です。眼瞼下垂の症状を改善したいと考えているのであれば、二重埋没法ではなく眼瞼下垂手術が適しています。
それぞれの特徴や負担を考え、症状の程度も確認しながら、医師と相談して適切な治療法を選択しましょう。
医療法人まぶたラボ ひふみるクリニックでは、眼瞼下垂手術と二重整形(埋没法・自然癒着法・切開法)のどちらにも対応しており「自分の目に適した手術が知りたい」とお悩みの方もお気軽にご相談いただけます。
各施術のメリット・デメリットや身体への負担、費用なども踏まえ、患者様に適切な治療法をご案内します。眼瞼下垂の治療法でお悩みの方はぜひ当院でご相談ください。


