
「目が重たくて開けにくい」「眠そうだとよく言われる」そんな違和感を抱えつつも、日常生活には大きな支障がないために見過ごされがちなのが軽度の眼瞼下垂です。眼瞼下垂というと、まぶたが大きく垂れ下がる重症例をイメージしやすいかもしれません。
しかし、軽度であっても見た目の印象や視界に影響を及ぼすこともあります。また、放置することで症状が進行し、頭痛や肩こり、視力の低下などの全身の不調を引き起こす可能性もあります。
この記事では、軽度の眼瞼下垂の症状や原因、放置によるリスクから、治療法・費用の目安、そしてよくある誤解まで幅広く解説します。眼瞼下垂の早期発見・早期対応の参考として、ぜひお役立てください。
軽度の眼瞼下垂とは?
眼瞼下垂とは、上まぶたが本来の位置よりも下がってしまい、目が開きにくくなる状態を指します。
軽度の場合でも、目が開きづらい、まぶたが重く感じるなどの自覚症状が現れることがあります。見た目の変化だけでなく、疲れ目、集中力の低下を招くこともあります。
このような軽度の眼瞼下垂は、自覚しにくいケースも多く、見過ごされがちです。しかし、正確な診断によって早期に対応することが、快適な日常生活を送るためにも大切です。
眼瞼下垂の症状と重症度の違い
眼瞼下垂の重症度は主に3つの指標で判定されます。
- MRD-1(瞼縁角膜反射距離):角膜中央の反射点から上まぶたの縁までの距離
- 瞼裂高:黒目の最下部から上まぶたまでの距離。見た目の目の開き具合を確認する
- 挙筋機能検査:上まぶたを引き上げる筋肉の動きを測定
それぞれの検査の正常値と軽度・中等度・重度を判断する数値は以下の通りです。
| 検査項目 | 正常値 | 軽度下垂 | 中等度下垂 | 重度下垂 |
|---|---|---|---|---|
| MRD-1 | 2.7~5.5mm | 約1.5~2.7mm | 約-0.5~1.5mm | -0.5mm以下 |
| 瞼裂高 | 約10mm以上 | 約6~9mm | 約6~9mm | 5mm以下 |
| 挙筋機能検査 | 8mm以上 | 約4~7mm | 約4~7mm | 3mm以下 |
挙筋機能検査の値が正常であっても下垂がある場合は腱膜性眼瞼下垂の可能性が考えられます。
これらの検査により、医師が重症度を判断し、症状の程度に合った適切な治療法を行います。
軽度眼瞼下垂の主な原因
軽度の眼瞼下垂の原因は以下のようなものがあります。
- 加齢:まぶたを持ち上げる腱膜のゆるみや皮膚のたるみ
- ハードコンタクトレンズの長期使用:長年の装着により腱膜にダメージ
- 目をこする癖やアレルギー:繰り返し刺激を与えることでまぶたに負担がかかる
- 先天性の構造:生まれつき挙筋の働きが弱い
- 神経や筋肉の病気:軽度でも重症筋無力症などの病気の初期症状として現れる場合も
眼瞼下垂が軽度であっても、疾病などが隠れているケースもあるため、少しでも違和感を持ったら信頼できる医療機関に相談することが大切です。
軽度眼瞼下垂の放置リスク
軽度であっても、眼瞼下垂を放置することで、問題が生じる可能性があります。眼瞼下垂は放置すると、加齢や生活習慣の影響で中等度・重度へ進行することがあります。
まぶたが視界を遮ることで視野の狭まりだけでなく、肩こり・頭痛、目の疲労感やドライアイなどの症状が引き起こされるケースもあるため、早期治療をおすすめします。
軽度の眼瞼下垂の治療法
軽度の眼瞼下垂は、症状が進行する前に適切な対策を講じることで、日常生活への支障を抑えることができる場合もあります。
症状の程度や原因によって治療法は異なり、まずは医師による正確な診断が重要です。
ここでは、セルフケアやトレーニングといった自分で行える方法から、医療機関で受けられる保険適用の手術まで、主な治療法を紹介します。
自分でできるセルフケアやトレーニング
軽度の眼瞼下垂であれば、毎日のケアやトレーニングで進行を予防できる場合があります。
ただし、効果には個人差があり、改善を目的とするというよりは、症状の悪化を防ぐことを目的としています。
| 眼瞼挙筋ストレッチ
(1日数回) |
1. 額に手を当てて固定し、眉を動かさず目を大きく開く 2. 数秒キープし、ゆっくり目を閉じて休む |
| 眼輪筋トレーニング
(1日数セット) |
・ウインクや意識的なまばたき ・眼球を左右・上下・円を描くように動かす |
| 姿勢の見直し | 背筋を伸ばし、目線が自然な位置に来るよう意識しましょう |
| おでこ・こめかみ・頭皮のマッサージ |
まぶたを直接マッサージするのは逆効果 額・側頭部・頭皮をやさしくほぐす |
以上のようなセルフケアやトレーニングを日常的に習慣にしてみましょう。
保険適用になる眼瞼下垂手術
軽度であっても、視野障害や生活に支障が出ている場合には、眼瞼下垂の手術が保険適用となります。
手術方法は、原因や症状の程度によって異なります。
挙筋前転法
上まぶたを引き上げる筋肉の腱膜がゆるんでいる場合に行う手術です。
ずれてしまった腱膜を元の位置に縫い直すことで、まぶたの開きを改善します。腱膜性眼瞼下垂に対しても一般的に行われている術式で、比較的軽度~中等度の症例に適しています。
挙筋短縮法
眼瞼挙筋が弛緩している、あるいは挙上機能が低下している場合に行われる手術です。
筋肉を一部切除・短縮して縫合することで、まぶたを持ち上げる力を強くします。中等度から重度の眼瞼下垂に適用されることが多いです。
上眼瞼切開法(皮膚切除)
まぶたの皮膚が過剰にたるんでいることで下垂が生じている場合に行います。
上まぶたの皮膚を適量切除し、自然なラインに整えることで、開瞼状態を改善します。術後の腫れも比較的少なく、審美的にも配慮された術式です。
筋膜移植法(前頭筋吊り上げ術)
眼瞼挙筋がほとんど機能していない重度のケースで選択される術式です。
額の前頭筋とまぶたを自身の大腿筋膜などを用いて連結させ、額の動きでまぶたを引き上げられるようにします。先天性や神経性の重度眼瞼下垂に適用されることが多いです。
眉下切開
まぶたではなく、眉の下のラインに沿って皮膚を切開・切除することで、自然にまぶたのたるみを改善する方法です。
まぶたに直接メスを入れないため、ナチュラルな印象を保ちやすく、腫れも比較的少なめです。加齢による皮膚のたるみが中心のケースに選ばれることが多いです。
切らない眼瞼下垂の効果とリスク
軽度の眼瞼下垂の方向けに『切らない眼瞼下垂』という術式をすすめるクリニックもあります。皮膚の切開をせずに行える手術のため、ダウンタイムが短いことで注目されていますが、すべての症例に適しているわけではありません。
また、術後の合併症や、後戻り、効果が実感されないケースもあり、推奨しない医療機関も多くあります。
ここでは、切らない眼瞼下垂の基本的な仕組みや、リスク・注意点について解説します。
切らない眼瞼下垂とは?
切らない眼瞼下垂とは、まぶたの裏側から伸びた挙筋腱膜やミュラー筋を特殊な糸で縫い縮めてまぶたを引き上げる方法です。
皮膚を切開しないため腫れが少なく、術後の回復も早いというメリットがありますが、まぶたの状態や筋肉の機能によっては効果が得られないこともあります。
切らない眼瞼下垂のリスク
見た目の改善やダウンタイムの短さを重視する方に人気のある手法ですが、その反面、明確なリスクや制限もあります。
重度の場合は適応できない
この手術法では、筋肉や腱膜自体を根本から修復するわけではないため、重度の眼瞼下垂に対しては十分な効果が見込めません。
まぶたの開きが極端に悪い場合や、挙筋機能が著しく低下している場合には、切開を伴う本格的な手術が必要となります。
効果が一時的で後戻りする可能性
切らない眼瞼下垂では、医療用の糸をまぶたの筋肉を一時的に固定するにすぎません。そのため、時間の経過やまばたきの繰り返しによって糸がゆるんだり、はずれたりすると、再びまぶたが下がってくるケースがあります。
特に眼瞼下垂の原因が筋肉の機能低下による場合は、後戻りしやすい傾向にあります。
自由診療で費用が高い
切らない眼瞼下垂は、保険適用外の自由診療となるため、費用が高額になる傾向があります。
加えて、効果が長期的に続かない場合は再手術の必要性も出てくるため、費用対効果の面で納得できるかどうか、慎重な判断が求められます。
眼瞼痙攣を起こすケースもある
ミュラー筋を損傷する術式は、術後に眼瞼痙攣という病気を引き起こす可能性がゼロではありません。
眼瞼痙攣は脳の神経回路に不調が生じ、自分の意志とは関係なく、まぶたの動きが自在にならず開瞼困難や開瞼持続困難になる病気です。まぶしさを感じ、明るいところで目を開けられなくなるなど、日常生活に支障が出る場合もあるため、再修正手術が必要になるケースが多いです。
また、術中に刺激されるミュラー筋は、交感神経に関与する部位のため、まれに自律神経のバランスに影響を与え、術後に眼精疲労・頭痛などの自律神経症状が出る場合もあります。
軽度の眼瞼下垂手術の費用相場
軽度の眼瞼下垂の場合、日常生活に支障が出ていると医師が診断した場合には保険適用になります。
しかし、たるみが見られるけれど視野の狭まりやその他の症状が出ておらず、日常生活にも支障がない場合、手術は自由診療となります。
保険適用での眼瞼下垂手術の費用相場は両目で48,000円程度で、検査代などはさらに別途かかります。自由診療はクリニックによって費用が異なり、大きく差がありますが、一般的には、40~60万円程度です。
軽度の眼瞼下垂の誤解
軽度の眼瞼下垂に対しては、さまざまな改善方法がインターネットやSNSで紹介されていますが、信頼性に欠けるものも多く見られます。
ここでは、誤認されやすい内容を中心に、正しい理解を促すポイントを整理します。
痩せたら自然に治る
体重を減らせば眼瞼下垂も改善するという説がありますが、眼瞼下垂の主な原因は筋肉や腱の機能低下によるものです。
脂肪が原因で目元が重たくなっている場合には、減量により目元がすっきりする可能性がありますが、筋肉の問題が根本にある場合、体重の減少で症状が改善することはありません。
マッサージやトレーニングで治る
セルフマッサージや筋肉トレーニングが眼瞼下垂の改善に有効とする情報もありますが、根本的な改善につながるものではありません。
あくまでも予防的にマッサージやトレーニングを行うことは有効です。しかし、誤った方法でまぶたを刺激し続けると、皮膚のたるみを悪化させたり、炎症を引き起こしたりする可能性もあるため。注意が必要です。
アイプチで治る
アイプチなどの二重形成グッズで一時的にまぶたを持ち上げることは可能ですが、眼瞼下垂そのものを治すことはできません。
長期使用によって皮膚やまぶたへの負担が蓄積され、逆に症状を進行させてしまうリスクもあるため、継続的な使用は推奨されません。
手術しなくても治る
軽度の眼瞼下垂であっても、根本的に治すためには医療的な介入、特に手術による治療が必要になるケースがほとんどです。
生活習慣の見直しやセルフケアでは、症状の進行を遅らせたり一時的に和らげたりする効果はあるかもしれませんが、完全に治るわけではありません。「手術なしで治せる」という言説は過度な期待を招くため、信頼できる医師と相談しながら適切な方法を選ぶことが大切です。
軽度の眼瞼下垂のよくある質問
軽度の眼瞼下垂に関しては、どのようなタイミングで受診すべきか、手術の必要性があるのかなどさまざまな疑問を抱く方が少なくありません。
ここでは、よくある質問に対してわかりやすく解説します。
軽度でも手術が必要になる?
症状が軽度であっても、日常生活で視野が狭く感じたり、目を大きく開けづらくなっている場合は手術の選択肢を考慮することがあります。
特に、無意識のうちに額の筋肉を使ってまぶたを持ち上げているような場合は、慢性的な頭痛や肩こりの原因になることもあるため、早めに医師へ相談することが望ましいでしょう。
片目だけ眼瞼下垂になることもある?
片目だけに眼瞼下垂の症状が現れるケースも存在します。
特に先天性の眼瞼下垂では、片目のみが影響を受けることが多く報告されています。また、後天的な眼瞼下垂においても、加齢や習慣的な目の使い方の影響で、片目だけに症状が出る可能性は十分にあります。
軽度の眼瞼下垂は保険適用される?
眼瞼下垂の手術が保険適用となるかどうかは、症状の程度や生活の影響によって判断されます。
上まぶたが瞳孔にかぶって視野に支障が出ている、あるいは自然な開瞼が困難と医師が判断した場合には、軽度でも保険が適用される可能性があります。ただし、見た目の改善や美容目的の場合は、保険対象外となるため、目的に応じた受診が大切です。
軽度の眼瞼下垂は何科を受診すべき?
眼瞼下垂の手術を保険適用で受けるには、まず眼科または形成外科を受診するのが一般的です。どちらの診療科も、眼瞼下垂に対する診断や治療に対応しており、視野の狭さや目の疲れと言った機能面の問題があるかどうかを医学的に評価します。
手術に関しては、眼瞼下垂は形成外科の専門分野であり、見た目の仕上がりにも配慮した外科的処置が期待できるでしょう。
まとめ
軽度の眼瞼下垂は、日常生活での些細な不調や見た目の変化から始まることが多く、気づかないうちに悪化するケースも少なくありません。セルフケアや生活習慣の見直しで治すことは難しく、根本的な改善には医療機関での診断・治療が必要となることがほとんどです。
『ひふみるクリニック』では、軽度の眼瞼下垂の方に対しても患者さんの症状に適した治療法を提案します。手術に関しても、日帰りで受けることができ、豊富な経験を持った形成外科専門医が施術します。
症状の程度に関わらず、違和感を感じたら早めに『ひふみるクリニック』へご相談ください。


