
近年、「切らない眼瞼下垂」というメスを使わずに眼瞼下垂を改善するとされる施術が注目を集めています。
しかし、これらの多くは保険適用外の自由診療であり、埋没法(ミュラー筋タッキング法)が中心です。この術式は、皮膚を切らずにミュラー筋を糸で縫い縮めるものですが、眼瞼痙攣をはじめとする合併症の報告が多く、専門医の間でも否定的な意見が少なくありません。
この記事では、切らない眼瞼下垂治療について、方法とリスク・制限点を客観的に解説したうえで、なぜ切る眼瞼下垂手術が支持されているのか紹介します。
眼瞼下垂とは?
眼瞼下垂とは、まぶたが正常な位置よりも下がってしまう状態を指し、視界が狭くなったり、外見上「眠たそう」「疲れているように見える」といった印象を与えることもある病気です。
主に上まぶたを持ち上げる筋肉やその腱に異常が起こることで発症し、生活の質にも影響を与えることがあります。
眼瞼下垂は、大きく分けて以下の2種類に分類されます。
- 先天性眼瞼下垂:出生時からのもので、眼瞼挙筋の発達異常などが原因
- 後天性眼瞼下垂:加齢や生活習慣により発症
信頼できる専門医のもとで、正確な判断に基づき適切な治療方針を決定することが大切です。
眼瞼下垂の症状と原因
眼瞼下垂が進行すると現れる症状は以下のようなものです。
- 目が開きにくい、まぶたが重い
- 上方の視界が狭くなる
- 頭痛や肩こり、眼精疲労
- 左右で目の大きさが違って見える
- 運転中、信号などが見づらい
これらはまぶたが下がることによって視野を確保しようとする動作(額や首の筋肉を使って目を開けようとする)による二次的な影響もあります。
主な原因としては、加齢による筋腱のゆるみが最も多いとされていますが、以下のような生活習慣や病気などによっても眼瞼下垂が起こる場合もあります。
| ハードコンタクトの長期使用 | まぶたに負担をかけ続けることで腱膜が損傷する可能性 |
| 目をこする癖やアイメイクの影響 | まぶたへの慢性的な刺激が腱膜にダメージを与える |
| 全身性の病気 | 動眼神経麻痺、重症筋無力症などの神経麻痺 |
| 先天的要因 | 出生時からまぶたを上げる筋肉が発達していない |
生活習慣やその他の病気でも眼瞼下垂の原因になり得るため、年齢に関わらず起こる病気といえます。
放置するとどうなる?
眼瞼下垂を放置すると、視界の問題だけでなく、身体や心にさまざまな悪影響を及ぼすことがあります。
慢性的な頭痛や肩こり、眼精疲労・めまい、車の運転やパソコン作業などの日常的な生活にも支障をきたす可能性もあります。また、見た目の印象が悪化することで対人関係や自己肯定感にも悪影響を及ぼすこともあり、心理的なストレスにもつながるかもしれません。
先天性眼瞼下垂で視界が妨げられる場合、小児の視力の発達に悪影響を及ぼし弱視の原因となることがあります。
眼瞼下垂は、放置するとさまざまな症状が現れるため、早期の診断と必要に応じた手術が必要です。
切らない眼瞼下垂治療とは
切らない眼瞼下垂治療は、まぶたを切開せずに軽度~中等度の眼瞼下垂の症状を一時的に緩和する治療法です。
いずれの方法も根本的な治療ではなく、一時的な改善にとどまるため、症状が進行する前の早めの対処や予防的な目的で選ばれる場合もあります。重度の眼瞼下垂や明確な機能障害を伴う場合は、切開を伴う手術が適応となります。
糸による埋没法(非切開)
埋没法は、まぶたを引き上げる筋肉を糸でまぶたの骨に固定することでまぶたの開きを改善する手術です。
皮膚を切開しないため、腫れが少なくダウンタイムが短いというメリットがあり、術後すぐに日常生活へ復帰できるケースもあります。
ただし、効果は時間の経過とともに薄れることがあり、合併症などの報告もあることから、根本的な治療法とは言い難いものです。軽度の眼瞼下垂や美容目的での対応などで適用される場合がありますが、中等度以上の場合は切開による手術が確実です。
ボトックスによる一時的な改善
ボトックス注射は筋肉の動きを一時的に抑えることでしわを軽減する目的で使用されますが、偽眼瞼下垂に対しては一時的な症状の緩和が期待できる可能性があります。
ボトックス注射は比較的簡便でダウンタイムも少ないのが特徴ですが、眼瞼下垂の根本的な治療には該当しません。
トレーニングやマッサージによる予防法
眼瞼下垂の予防として、まぶたを持ち上げる筋肉(眼瞼挙筋)のトレーニングや、額の緊張をもぐすマッサージが紹介される場合もあります。
眼瞼挙筋のトレーニングは以下のような手順で行います。
- 目を閉じて額の力を抜く
- 手のひらで額を抑えて、眉を動かさないようにする
- 両目をできるだけ大きく見開いて5秒キープする
- ゆっくり目を閉じてリラックスする
上記のようなトレーニングを1日数回行うと、眼瞼挙筋の衰えを防ぐ効果が期待できます。
ただし、これらはあくまで予防的なアプローチであり、眼瞼下垂を根本的に改善させる効果はありません。すでに症状がある方には、医療機関での適切な診断と治療が必要です。
切らない眼瞼下垂治療のメリット
切らない眼瞼下垂治療のメリットとして挙げられるのが、以下のような点です。
- 術後の回復が早く日常生活に戻りやすい
- 傷跡が目立ちにくい
- すぐにメイクができる
上記のような項目は魅力的に感じやすいですが、あくまでも軽度で一時的な症状に限られた治療です。
特に、根本的な治療を必要とする中等度以上の眼瞼下垂の場合、再発や仕上がりの不満に悩まされる可能性があります。信頼できる医療機関を選び、十分なカウンセリングと診断を受けたうえで自分にとって最適な治療法かを慎重に見極めることが大切です。
切らない眼瞼下垂治療のデメリット
切らない眼瞼下垂治療は、傷が目立ちにくくダウンタイムが短いという利点がありますが、すべての患者さんにとって最適な治療法であるとは限りません。
見た目の自然さや手軽さが強調されがちですが、以下のようなデメリットも十分に理解しておく必要があります。
合併症を引き起こす可能性がある
切らない眼瞼下垂治療では、皮膚を切開せず裏側から糸で筋肉を引き上げる手法が用いられます。
この手法は、視野の狭い裏まぶたで糸を通すため、感染や眼瞼痙攣のリスクが高くなりやすくトラブルが多くなりがちです。合併症などのトラブルが起こると、見た目だけでなく機能面にも影響を及ぼす可能性があるため、慎重な術式の選択と術後の管理が必要です。
手術適応が狭い
切らない眼瞼下垂治療はまぶたの筋肉のゆるみが主な原因であり、皮膚のたるみや脂肪の厚みがあまりない軽度の眼瞼下垂の方にしか効果が出にくいのが現状です。
日本人に多い皮膚の余剰が強いタイプや、加齢によって皮膚が垂れ下がっているケースでは、十分な治療効果が得られません。
自由診療のため費用が高額になる
切らない眼瞼下垂治療は自由診療となるため、一般的な相場で両目で15~45万円程度とクリニックによって大きな差があります。
一方で、保険適用される切開法であれば3割負担で5万円前後に抑えられる場合がほとんどです。
切らない手術は、医療的な妥当性や費用対効果を考えた際に、コストパフォーマンスが必ずしも良いとは限りません。
後戻りの可能性がある
糸で筋肉を引き上げる埋没法は、長期的な安定性に課題があります。
術後数年は維持される場合もある一方で、早期に症状が再発するケースも少なくありません。特にまぶたを擦る癖がある方や、体質的に皮膚が緩みやすい方では、予想以上に早く後戻りすることがあります。
医学的な根拠が乏しい施術も存在する
「切らない」「ダウンタイムが短い」などの言葉が先行し、一部のクリニックでは十分な解剖学的理解や医学的根拠に基づかない術式が行われている場合もあります。特に、美容外科を専門としない施設や、過度な広告を行っている医療機関では注意が必要です。
手術を検討する場合は、信頼できる医療機関を見極め、カウンセリングで疑問点をしっかりと相談し納得したうえで、施術を受けましょう。
繰り返しの施術で費用がかさむ可能性
後戻りや左右差が出た場合、修正や再手術が必要になることがあります。複数回の手術を繰り返すと、まぶたの組織が癒着し、次回以降の手術がより複雑かつ難易度の高いものになるリスクも考慮すべきです。
また、合併症が起こった場合にも、その治療にも費用と時間がかかり、機能面だけでなく精神的にも負担がかかる可能性があることにも注意しましょう。
切る眼瞼下垂手術について
眼瞼下垂の治療は、症状の程度や原因に応じて複数の方法が選択されます。
そのなかでも医療機関による切る眼瞼下垂手術は、保険適用が認められており、機能改善を目的とした医療行為として広く行われています。ほとんどのケースで日帰り手術が可能で、入院の必要もないため、負担が少ないといえるでしょう。
切る眼瞼下垂手術の種類
切開を伴う眼瞼下垂手術にはさまざまな術式があり、症状の原因に応じて最適な方法が選ばれます。
ここでは、それぞれの手術法の特徴を紹介します。
挙筋前転法
まぶたが下がる主な原因のひとつである眼瞼挙筋腱膜のゆるみを修復する基本的な手術法です。
皮膚と眼輪筋を切開して腱膜を露出させ、前方に引き出して縫いつけることでまぶたをしっかりと持ち上げます。傷跡は二重のラインに隠れるため目立ちにくく、再発率も低く抑えられるのが特徴です。
挙筋短縮法
挙筋のゆるみが強い場合に選択される方法で、腱膜自体を切除して短くし、まぶたに固定します。
構造的に強力な引き上げが可能ですが、経験が豊富でない医師の施術などでは、過矯正(目が開きすぎるなど)のリスクがある点には注意が必要です。
上眼瞼切開法(皮膚切除)
まぶたの皮膚のたるみが主な原因で、眼瞼下垂が生じている場合に行われる手術です。
上まぶたの余分な皮膚を取り除き、まぶたの重さを軽減することで視界を改善します。
筋膜移植法(前頭筋吊り上げ術)
眼瞼挙筋の機能が著しく低下している場合に適応される手術で、おでこの筋肉を使ってまぶたを引き上げる方法です。大腿部から採取した筋膜や人工素材を使う場合が多いです。
先天性の下垂や重度の機能不全に対して有効な手法ですが、人工素材を使用する場合の異物反応や傷跡に対しては配慮が必要です。
眉下切開
眉毛の下のラインに沿って皮膚を切除する方法で、主に加齢による皮膚のたるみが強い方に適しています。
まぶたには直接手を加えず、自然な変化で若々しい印象を取り戻すことができます。
切る眼瞼下垂手術の費用相場
切開による眼瞼下垂手術は、視野障害や日常生活への支障があると診断された場合、保険適用となります。
保険適用の眼瞼下垂手術と切らない眼瞼下垂治療の一般的な費用相場は以下の通りです。
| 切る眼瞼下垂手術(保険適用) | 切らない眼瞼下垂治療(自由診療) |
|---|---|
| 両目5万円程度(3割負担) | 15~45万円程度 |
上記のように費用面では切る手術と切らない手術の間に大きな差があるのが実情です。
機能的な改善を目的とする場合には、保険診療の対象となる切開手術が、経済的にも現実的な選択肢となります。
まとめ
切らない眼瞼下垂治療は、手軽さやダウンタイムの少なさから魅力が多いように見えますが、多くは保険診療の対象ではなく、十分な医学的エビデンスに裏付けられているとは言い難い施術です。合併症も多く報告されており、専門医のなかでも慎重に取り扱うべきものという考え方が主流です。
一方、切る眼瞼下垂手術は保険適用される症例も多く、症状の根本改善が可能な治療法です。
納得できる治療を受けるためには、信頼できる専門医に相談し、正しい医学的判断に基づいた治療を選ぶことが大切です。
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